今年7月に、埼玉県にあるセキスイハイムの生産工場を一緒に訪れた放送作家の小山薫堂さんとサポーズデザインオフィスの谷尻誠さん、吉田愛さん。システマチックでクリーンな工場のなかでスピーディにつくられていく高品質&高機能な住宅の特長を活かした薫堂さんの別荘プランを考えてみようと、再び顔を合わせた。
- 小山
- 工場を訪れた後にもいろいろとお話ししましたが、おふたりは、正直なところセキスイハイムの家をどのように理解されましたか。
- 谷尻
- まず鉄骨のユニットは、実にシンプルで美しいカタチをしていると思いました。また、ユニットごとに完全に独立した構造であるのもおもしろいですね。
- 吉田
- だからこそ、「配置によっていろんな家のカタチが考えられるよね」って話し合っていたんです。
- 小山
- なるほど。ではそのアイデアを元に考えていただいた私の別荘プランを見せていただいてもいいですか。
- 吉田
- 前回お会いした時に、薫堂さんが「人がたくさん集まって、みんなが仲よくなれる家がほしい」とおっしゃっていたことを軸に、「まっすぐな家」と「蛇行する家」という2つの開放的な居住空間を考えてみました。
- 谷尻
- 2つの案はカタチこそ違いますが、どちらもコンセプトは同じ。美しいランドスケープのなかで、ヴィラのように居室を点在させ、ひとつの大きな屋根でつないでいったものです。
このプランでは、ユニットのカタマリを横方向に連続して並べている。ギャラリーやダイニングキッチンなど各カタマリに用途があり、その隙間にできた空間はテラスとしてはもちろん、シアターやダイニング、ガーデニングなど、住み手の好みに応じて自由にアレンジ。「縁側を現代風に巨大にしてみました」とふたりは語る。
2~4のユニットを分棟形式で角度をそれぞれに違えながら配置し、ジグザグとうねるユニークな形状の建屋。このプランの特徴として、敷地の形状や景色、太陽の角度などに応じてユニットの振りをさまざまにアレンジでき汎用性も高い。ユニットと構造的に分離させた大きな屋根は「ダブルルーフ」で一軒の建屋に見せている。
※ここで紹介したプランは、サポーズデザインオフィスがセキスイハイムの概略ルールから構想した案です。実際にこのまま建築が可能というわけではありません。
- 小山
- この部屋のように見えている部分に工場でつくるユニットを使っているんでしょうか?
- 吉田
- はい。セキスイハイムのユニット工法は、柱と梁だけで荷重や外力に十分に耐えうる堅牢なラーメン構造なので、その特性を活かしたプランになっています。
- 谷尻
- まず、土地の形状に合わせてユニットを縦横につなげたり、自在に並べ替えたりできるかなと考えました。さらに壁面に筋交いが不要ということで、大胆に開口部を設け、目の前に広がる壮大な景色を家の中に取り込む案としました。
- 小山
- ユニット間に設けられた空間は、一体どんな意味をもった場所になるんでしょうか。
- 吉田
- ここは、部屋と部屋の間をつなぐ「屋根付きの中庭」。昔の日本家屋にはよく見られた縁側のように、家の外と中をつなぐ中間域を大きく捉えたものです。
- 谷尻
- たとえば山の中でキャンプをする時、テントの周囲に大きなタープを張りますよね。居住空間の近くにみんなで共有できるスペースがあると、そこに自然に人が集まり、和気あいあいとしたムードが生まれる。それと同じで、このプランでは居室の外に天候に左右されず気軽に出られる場所をいくつか設けることで、大勢の友人が集まっても同じ場所に人が滞留せずストレスなく交流を重ねることができると思ったんです。
セキスイハイムの家は、工場で生産されるユニットが基本になる。天気に左右されることのない屋根の下で家の大部分がつくられるため、耐震性やほかの住性能を確実に発揮できる安定品質が売りだ。
- 小山
- 開放的なのはいいのですが、お風呂などはどうですか?
- 谷尻
- 大丈夫です。ちゃんと入浴する時は外からは見えないように考えていますよ(笑)。プライバシーは守りながらも、開放的でもある。お風呂上がりには、この半屋外スペースで自然な風を浴びながら、ゆったりと湯上がりの時間を寛ぐ。そんなぜいたくもありなんじゃないかと。
- 小山
- それぞれの居室の役割を入れ替えることも可能なんですか?
- 吉田
- もちろんです。ラーメン構造のユニットは内部の自由度が高いので、施主の希望や地形に合わせて、色々と組み替えることができるはずです。
- 谷尻
- 今回の案にあるような大きな屋根は工場で生産できないと聞きました。なので構造的に縁を切った「ダブルルーフ」にすることでユニット工法と両立させ、解決できないかと考えています。
- 小山
- 一見、シンプルな箱の集合体に見えますが、このなかにいろいろな新しい家の可能性が秘められているんですね。
- 吉田
- 今回の案ではユニットの構成があまりにも明快なので、そこに余分なデザインやデコレーションはほとんどしていません。
- 谷尻
- 昔の日本の民家には、部屋そのものに決まった役割はありませんでした。ちゃぶ台を置けばダイニングになり、布団を敷けば寝室になる。この家はそれと同じで、使う人が自分なりの方法でアレンジできる可能性をもっているんです。
- 小山
- 染色家の吉岡幸雄さんと以前お話しした時、「家を建てる時は8割くらいまで完成させておいて、あとは暮らしながら足していく」とおっしゃっていたことを思い出しました。
- 吉田
- 私たちも、日頃からあえて〝未完成の家”を目指しています。そのほうが、住み手が自分で家を育てていくことができますから。
- 小山
- これは本当に育てがいのありそうな家ですね。技術的な課題はいろいろあるようですが、こんな家に実際に住むことができたらどんなに楽しいんだろうって心躍ります。まずはこの家が建てられる魅力的な環境を探すことから始めなきゃですね。